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乱読のかけら (2022年2月​)

リズムの哲学ノート、宴のあと、共に生きる生活、人間にとって善とは何か、沈黙 乱読のかけら (2022年2月​) リズムの哲学ノート 山崎正和 中央公論社 (2018年6月10日発行) 山崎正和は私の高校時代に最も憧れた知の巨人でした。あれから40年経ち、老境に達した山崎正和の著作は、私にはよく理解できないものになっていました。音楽をずっとやってきて、リズムにも拘ってきた私ですが、全く違ったアプローチには歯が立ちませんでした。 宴のあと 三島由紀夫 新潮文庫 (2020年11月1日発行) この小説を読むと三島由紀夫が天才であることがよくわかります。文章は詩であり、ストーリーの展開は最高のエンターテインメントです。こんな小説にはなかなか出会えません。日本の混沌した政治の世界と、その渦中にあった人々が実に生き生きと描かれています。 共に生きる生活 ディートリッヒ・ボンヘッファー 新教出版社(2018年5月18日発行) 森野善右衛門訳 クリスチャンの生活を指導するために書かれた本です。ナチスの弾圧の下で書かれたとのことで、当時の時代状況に関する記述は直接的には書かれておらず、聖書の時代や普通のクリスチャン生活を描くことで、ナチスに歪められた社会を批判しているのだと思います。 人間にとって善とは何か フィリッパ・フット 筑摩書房(2015年5月30日発行) 高橋久一郎監訳 「善」の問題は、私が哲学科の学生だった頃から、折に触れ、考えてきたことですが、この本を読んでますます混迷と混乱の中に入り込んでしまいました。やはり「善」は神から、「悪」がサタンの仕業というキリスト教のシンプルな考えに戻っていくしかないと思います。 沈黙 遠藤周作 新潮文庫 (2020年9月20日発行) 遠藤周作没後25年の特集をしていたので、読んでみました。クリスチャンになる前の高校生の時に初めてこの本を読んだ時には、見えなかった様々な宗教的課題が書かれていることが分かりました。日本では今も昔も沈黙するキリスト教の神は今の課題でもあります。 塩狩峠 三浦綾子 新潮文庫 (2019年5月30日発行) この小説を読むのは2度目で、映画も見ました。今回読んでみて、この小説の最後の部分以外、全く覚えていなかったことに気付きました。前半にはクリスチャン少年・永野信夫が苦悩し、信仰を深め、成長していく様子が描かれていることを知り、改めて感動しました。 翻訳&通訳なら桜コンサルタント社にお任せ! Tel: +603-5638 3001 info@sakura.net.my http://www.sakura.net.my

乱読のかけら (2022年1月​)

良心学入門、夕あり朝あり、論理トレーニング101題、ある男、男のヨガ、大きな文字 乱読のかけら (2022年1月​) 良心学入門 同志社大学良心学研究センター 岩波書店 (2018年7月18日発行・初版) 私の母校の同志社大学の先生方がそれぞれの専門分野から良心について書いた短い論文を編集した本です。1つの結論に到達することを目的とした本ではないので、1つのテーマにこれほど違った見方があるのか、ということを知るという意味では、いい本だと思います。 夕あり朝あり 三浦綾子 新潮文庫 (2019年4月25日発行) 白洋舎の創立者の伝記です。主人公の波乱万丈な人生が、物凄いスピード感を持って描かれていています。著者の三浦綾子が実際に主人公に会って、聞き取りをし、それを主人公の語り口の文体で小説にしています。明治生まれのクリスチャンは本当にすごいと思いました。 論理トレーニング101題 野矢茂樹 産業図書 (2017年12月1日発行) これは、IQテストというか、数学の文章題の現代国語版と言いましょうか、思い切り考えさせられる問題集です。これらの問題を読み流す (私がそうでしたが)だけでなく、受験参考書のように勉強すれば、きっと文章の論理矛盾が簡単に見破れるようになると思います。 ある男 平野啓一郎 文春文庫 (2021年9月10日発行・初版) 平野啓一郎の「マチネの終わりに」に感動し、この本を読んでみることにしました。3分の2まではとても面白かったのですが、答えが見えてしまった途端、結末が想像でき、その想像が裏切られずに終わってしまったので、失望しました。もう少し捻って欲しかったです。 男のヨガ 竹下雄真監修 朝日新聞出版 (2018年7月30日発行・初版) この本には、MCO中にお世話になりました。この本のポーズを参考に、毎朝40分間、自宅で1人ヨガを続けたお陰で、腰痛はなくなり、身体の動きも鈍りませんでした。私に出来るポーズはマスターしたので、忙しくてヨガ教室にいけない人に使って欲しいと思います。 大きな文字でもう1度読みたい文豪の名作短編集 彩図社 (2021年8月12日発行・初版) 最後の坂口安吾の「堕落論」以外は読んだことがありましたが、60歳になって読み返すと、どの小説も新鮮な感じがしました。その中でも一番考えさせられたのは森鴎外の「高瀬舟」でした。囚人になる方が食べる心配がないので楽という事実には重いものを感じます。 翻訳&通訳なら桜コンサルタント社にお任せ! Tel: +603-5638 3001 info@sakura.net.my http://www.sakura.net.my

乱読のかけら (2021年12月​)

光武帝(上・中・下)、イエスのたとえ話の再発見、人事の日本史、ルターはヒトラーの 乱読のかけら (2021年12月​) 光武帝(上・中・下) 塚本靑史 講談社文庫 (2006年6月30日発行) 後漢の光武帝の人生を描いた歴史小説です。2000年前の出来事が現代を描写するように書かれていて、エピソードを1つずつ読んでいく内に、1500ページの文庫本が終わってしまったという感じでした。しかし登場人物が多すぎ、覚えきれない人がたくさんいたのが残念でした。 イエスのたとえ話の再発見 ヨアヒム・エレミアス 新教出版(2018年9月1日発行・初版) 南條俊二訳 この本を読むと、新約聖書の中でイエス様が言ったとされる言葉の多くが、実は初代教会の創作であったり、宣教のためにストーリーが変形させられたりしたということが分かってしまい、イエス様をキリスト教の教祖だと思っている人たちの信仰が失われてしまうかもしれません。 人事の日本史 遠山美津男他 新潮文庫 (2008年4月15日発行) 聖徳太子から幕末の外国奉行までの人物を取り上げ、人事という観点から歴史を分析しています。それなりに面白く、現代にも通用するようなことも書かれていました。私が面白いと感じたのは、足利義教がくじ引きで征夷大将軍に選ばれ、将軍としても大したことはなかったということです。 ルターはヒトラーの先駆者だったのか 宮田光雄 新教出版 (2018年9月1日発行・初版) この本は宗教改革500年を記念しての著者の論文集ですが、私が一番興味を持ったのは、カール・バルトの神学が「万人救済説」であるかどうかが議論されていたことです。宗教改革によって、キリスト教が信徒にとって、難しい存在になってしまったこともこの本を読んで感じました。 クラシック音楽全史 松田亜有子 ダイヤモンド社 (2018年11月2日発行) 「ビジネスに効く世界の教養」と銘打ってのクラシック音楽の紹介本です。コンサートに一度も行ったことのない人が、ビジネスのツールとして、俄か知識を身につけるために書かれた本というのが、クラシック音楽にどっぷり浸かってきた私には、おかしな代物のように感じられました。 大作曲家の信仰と音楽 P.カヴァノー 教文館(2008年6月25日発行・初版) 吉田幸弘訳 欧米のクラシックの作曲家の多くがキリスト教を信仰し、信仰をベースとした曲を作曲していたことがよく分かりました。ヨーロッパの教会の荘厳な大聖堂で演奏される音楽は神様に捧げられるものであることを、それぞれの作曲家の人生や作曲のエピソードから知ることができました。 翻訳&通訳なら桜コンサルタント社にお任せ! Tel: +603-5638 3001 info@sakura.net.my http://www.sakura.net.my

乱読のかけら (2021年11月​)

ザビエルの夢を紡ぐ、悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト、合理的な神秘主義、未来の人 乱読のかけら (2021年11月​) ザビエルの夢を紡ぐ 郭南燕 平凡社 (2018年3月26日発行・初版) 外国人の宣教師が書いた日本語の文章について、中国人の女性研究者が研究をした本です。外国人が日本語で文章を書くことは、あまり行われて来なかったと思っていましたが、キリスト教、特にカトリックの宣教師たちが、日本語での執筆に積極的に挑戦していたことがわかりました。 悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト 浦久俊彦 新潮新書 (2018年7月20日発行・初版) パガニーニの伝記です。実に巧みな書き方で、音楽好きの好奇心を満足させてくれます。もしタイトルが「悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト」でなく、かつ新書の厚さを確保するために付け足したとしか思えない、後日談やスピンオフを除いたら、最高のパガニーニ伝になったと思います。 合理的な神秘主義 安冨歩 青灯社 (2015年15月30日発行) タイトルの「合理的な神秘主義」についてはそれほど明確な記述がなく、副題の「生きるための思想史」も著者の考える「思想史」の系譜は書かれていますが、「生きるため」についてはほとんど記述がありません。内容は「哲学者と思想家の世界的見地からの系譜」というべきものでした。 未来の人材は『音楽』で育てる 菅野真理子 ARTES (2018年6月30日発行・初版) この本は教育論というより、欧米の作曲家列伝のような内容の本です。作曲家列伝として読めば、実に興味深く、特にある作曲家がある作曲家に与えた影響の系譜についての情報は、これからクラシック音楽を聴いていく上で、より理解を深め、感動を誘ってくれる知識となると思います。 神は、脳がつくった E. フラー・トリー ダイヤモンド社(2018年9月26日発行・初版)寺町朋子訳 神についての考察というより、動物と人間の脳の進化によってどのような概念が生み出されてきたかということを解説した本です。神の概念を人間の脳が認識できるようになるのは、人類の長い歴史の中ではずいぶん後の方だということが書かれていました。私には期待外れの内容でした。 ひとびとの跫音(上・下) 司馬遼太郎 中公文庫 (1988年7月25日発行) 活動制限令で時間ができ、上下2巻物の本を読んでみようと思い、読み始めたのが、この司馬遼太郎の本です。正岡子規とその養子の忠三郎さん、彼の友人のタカジという日本共産党から追放された元幹部の人生が、覗き見したように、というか、友達のことを語るように書かれています。 翻訳&通訳なら桜コンサルタント社にお任せ! Tel: +603-5638 3001 info@sakura.net.my http://www.sakura.net.my

乱読のかけら (2021年10月​)

風は思いのままに、剣を収めよ、トマス・アクィナス、詐欺の帝王、不死身の特攻兵 乱読のかけら (2021年10月​) 風は思いのままに 山本将信 日本キリスト教団出版局 (2020年12月14日発行・初版) 著者の山本先生は私が最も敬愛する牧師先生です。1カ月間1日1つの聖書の節とそれに対応する短い説教が書かれた素晴らしい本です。この本に収められた内容は、キリスト教信仰の基本で、キリスト教に興味のある人、すでにクリスチャンの人の両方のよき手引書になると思います。 剣を収めよ ジョン・ディア 新教出版社 (2018年10月1日発行・初版) 翻訳が悪いのか、元の文章が不明瞭なのかは分かりませんが、どうしてこのような本が出版されたのかと考えてしまう、読んでよく分からない本です。非暴力で社会的な抵抗活動を行なったクリスチャンたちの行動を紹介する本ですが、その意図がほとんど伝わらない状況になっています。 トマス・アクィナス 山本芳久 岩波新書 (2017年12月20日発行・初版) 先月紹介した「キリスト教講義」の著者の1人が書いた本で、トマス・アクィナスのことがとてもよく分かりました。徳について理解、理性の役割などを、聖書の思想とギリシャ哲学の知識を駆使して、探求し、キリスト教の土台を作ったトマス・アクウィナスの神学には感動を覚えました。 詐欺の帝王 溝口敦 文春新書 (2014年7月25日発行) 私には遠い世界の話が書かれた本と思って読み始めたら、「ディナール詐欺」の仕掛人の話だとわかり、日本の友人からディナールがマレーシアで手に入らないかと尋ねられたことを思い出しました。この本で一番興味を惹かれたのは、違法に儲けた大金を使うのが実に困難であるということです。 不死身の特攻兵 鴻上尚史 講談社現代新書 (2017年12月13日発行) 特攻隊の攻撃はほとんど効果がなかったこと、特攻隊として死んでいった隊員は自ら望んで死んだのではなかったこと、そしてこの本の主人公は、9回特攻として出撃し、死ななかったこと、など、今までの歴史を覆す、すごい事実が書かれたノンフィクションです。 君も星だよ ミマス 音楽之友社 (2016年8月31日発行・初版) 合唱曲の「COSMOS」の作詞作曲者のミマスの本です。COSMOSは意味がよく分からない詩なので、ミマスは変わった人かと思ってこの本を読み始めました。最初の方はつまらなかったのですが、途中から、結構面白くなってきて、ミマスって結構勉強して、結構考えているなあと感心しました。 翻訳&通訳なら桜コンサルタント社にお任せ! Tel: +603-5638 3001 info@sakura.net.my http://www.sakura.net.my

乱読のかけら (2021年9月​)

キリスト教講義、絵を見る技術、水牛神学、MBA100の基本、大学4年間の社会学 乱読のかけら (2021年9月​) キリスト教講義 若松英輔・山本芳久 文藝春秋 (2018年12月15日発行・初版) 私が今まで読んだ日本語で書かれたキリスト教全般を解説する本の中で、最もわかりやすく、最も私の関心に応えてくれた本です。聖職者でないカトリックの2人の学者による対談ですが、日本の教会の中で、今までなんとなくぼかされて来たことも議論していることに好感が持てました。 絵を見る技術 秋田麻早子 朝日出版社 (2020年2月4日発行) 絵画を分解、分析して、人間の感覚がどう反応するかということを対象とした科学の紹介ですが、興味をそそられる内容ではありませんでした。芸術は言葉に置き換えられないものであり、科学的に説明したり、学問として人に教えたりするのは、こじつけの範囲を越えないような気がします。 水牛神学 小山晃佑 教文館(2011年9月30日発行・初版) 森泉弘次訳 日本人の神学者が英語で書いた本の日本語訳です。「水牛の神学」は私がクリスチャンになった頃、アジアの神学としてもてはやされていました。この本を読んでみると、その頃聞いていたのとは全く違う内容で、また体系的な神学書ではなく、神学関係の エッセイの寄せ集めの本でした。 MBA100の基本 嶋田毅 嶋田毅東洋経済新聞社 (2017年12月14日発行・初版) 読み物としては面白いと思います。普段世界中のビジネスマンがやっていることを理路整然と概念化したことを簡単に説明しているので、具体的な状況を考えながら読むことで興味が増しましたが、これらの理論は現場で応用して始めて意味があるということも、この本を読んで思いました。 大学4年間の社会学が10時間でざっと学べる 出口剛司 KADOKAWA (2019年2月1日発行・初版) この中で取り上げられた雇用や労働に関することが、私にはとても興味深いトピックでした。特にアーリー・ホークシールドというアメリカ人の女性社会学者の研究である、感情労働やセカンド・シフト、グローバル・ケア・チェーンについてはぜひ学んでみたいと思いました。 MBA生産性をあげる100の基本 嶋田毅 東洋経済新聞社 (2017年9月18日発行) この本の生産性は工場の生産性ではなく、仕事の効率や会社の人材の有効活用という面での生産性がテーマとなっています。それなりに納得する内容ではありますが、人間は機械でなく、感情もあり、病気も、ストレス解消の息抜きも必要なので、この本の通りには行かないと思いました。 翻訳&通訳なら桜コンサルタント社にお任せ! Tel: +603-5638 3001 info@sakura.net.my http://www.sakura.net.my

乱読のかけら (2021年8月​)

赦されて生きる、世界地図のすごい読み方、戦後最大の偽書事件『東日流外三郡 乱読のかけら (2021年8月​) 赦されて生きる 山本将信 日本キリスト教団出版局 (2020年12月14日発行・初版) 私の恩師の山本先生の遺稿集です。キリスト教に関心がある方にぜひ読んでいただきたいキリスト教入門のような説教集です。先生の少年時代の壮絶な体験のお話は、宗教とは関係なく、人の心を打つと思います。人生に悩んだり、苦しいことがあった人へのよきアドバイスの本です。 世界地図のすごい読み方 ライフサイエンス 知的生き方文庫 (2021年4月5日発行・初版) 結構知らないことが書かれていて、雑学の知識が増えたように思いました。私はカスピ海は湖だと思ってきましたが、今は海であるようです。またマレー半島からサバ、サラワクに行くのにパスポートがいるのは、サバ州、サラワク州の独立性が高いからという理由には納得いきません。 戦後最大の偽書事件『東日流外三郡誌』 斎藤光政 集英社文庫 (2019年11月6日発行) 青森のローカル新聞・東奥日報の記者である著者が長年に渡って追いかけたインチキ古文書事件を描いたノンフィクションです。謎解きのような取材の1つ1つが、推理小説のようで、とても面白く読むことができました。実は偽書は使い方によっては金儲けになることがわかりました。 物語を忘れた外国語 黒田龍之助 新潮文庫 (2021年4月1日発行・初版) ロシア語の専門家が書いた外国語に関するエッセイです。翻訳・通訳を生業としてきた私には興味深い内容でしたが、大学の先生と現場の人間の外国語に対する姿勢の違いを感じました。私は知らない単語は必ず辞書を引きますが、この先生は辞書なしで本を読むことを推奨しています。 学校では教えてくれない日本史の授業 井沢元彦 PHP文庫 (2013年3月13日発行) 和の精神、怨霊、言霊の3つで日本の歴史を説明する興味深い本です。実はこうだった、という形式の本なので、つい引き込まれて読んでしまいます。この本を読んでいる内に、この著者の言っていることが事実で、日本の歴史はそのように書き換えられるべきだと思ってしまいました。 アジア血風録 吉村剛史 MdN新書 (2021年4月11日発行・初版) 日本人のジャーナリストにしては、きちんと取材をし、確固たる視点を持って、アジアの状況を見、それを人々にわかるように書いている人だと思いました。特に中国とアメリカの関係については著者が書いている方向に、バイデン政権が向かっているようですので、すごいと思いました。 翻訳&通訳なら桜コンサルタント社にお任せ! Tel: +603-5638 3001 info@sakura.net.my http://www.sakura.net.my

乱読のかけら (2021年7月​)

野良犬の値段、ぼくの旅のあと先、帝国の弔砲、路、逝きし世の面影、東京の空の 乱読のかけら (2021年7月​) 野良犬の値段 百田尚樹 幻冬舎 (2020年12月25日発行・初版) 読み始めた時はつまらないと思いましたが、途中からどんどん引き込まれて、エンディングがどうなるのかを色々考えながら読みました。あらすじを書いてしまうと、この本を読む人の楽しみを奪うので、ただハッピーエンドと言える結末とだけ書かせていただきます。 ぼくの旅のあと先 椎名誠 角川文庫 (2020年12月26日発行・初版) この本を20代に読んでいたら、感動し、自分もこういう旅をしてみたいと思ったと思います。しかし60歳になる私には、こんな苦労をしてまで旅をしたくはないというのが正直な感想です。ぜひ若い人には、苦労をして世界を旅し、出会と発見をしてほしいと思います。 帝国の弔砲 佐々木譲 文藝春秋 (2021年2月25日発行・初版) 去年、佐々木譲の2つの小説を紹介しましたが、それらに比べるとこの小説は少しダイナミックさに欠ける地味な展開でした。しかしロシアに移民した日本人の子孫を主人公にするなど、設定は興味深く、日本とロシアが隣国であり、歴史を共有してきたことを感じました。 路 吉田修一 文春文庫 (2020年6月20日発行) 台湾の新幹線プロジェクトに関わった日本人女性と彼女が学生時代に出会った台湾人男性の物語です。言葉がよく通じない人どうしは、言葉で互いの感情を傷つけることがなく、しかも行動や表情で思いを伝えようとするので、愛が芽生えやすいのだと思いました。 逝きし世の面影 渡辺京二 平凡社 (2018年4月18日発行) 渡辺京二という人は歴史の研究者でありながら、まるで歴史小説を書くように歴史を描くことのできる人だということをこの本で確信しました。去年紹介した「バテレンの世紀」と同様、この本も江戸末期から明治の初めの日本の人々が実に生き生きと描かれています。 東京の空の下、オムレツの匂いは流れる 石井好子 河出文庫 (2016年4月30日発行) シャンソン歌手の石井好子が料理レシピを紹介しながら、料理にまつわる思い出を書いたエッセイ集です。これらのエッセイが最初に雑誌に連載された昭和の終わりには、まだ紹介されている料理がそれほど知られていなかったと思うと隔世の感があります。 翻訳&通訳なら桜コンサルタント社にお任せ! Tel: +603-5638 3001 info@sakura.net.my http://www.sakura.net.my

乱読のかけら (2021年6月​)

フンボルトの冒険、近代と現代の間、義のアウトサイダー、超・殺人事件、恋のゴ 乱読のかけら (2021年6月​) フンボルトの冒険 アンドレア・ウルフ NHK出版(2017年1月30日発行・初版) 鍛原多恵子訳 フンボルトの「コスモス」に高校生の頃に魅了され、私が生徒会長を務めた高校の生徒会広報の名称を「コスモス」としました。その後フンボルトはご無沙汰でしたが、この本を読んで、フンボルトの人柄と生涯がよく分かり、かつ彼の冒険は中南米とロシアだけだったことも分かりました。 近代と現代の間 三谷太一郎対談集 東京大学出版会 (2018年7月20日発行・出版) 対談で語られている内容が昔の話で、しかも関係者にだけ楽しい内輪の話の色彩が強いのが少し鼻につきました。近代と現代の間というタイトルのテーマそのものの議論がほとんどないのも、看板に偽りありです。1つの発見は、昔は思想家が政治に大きな影響を及ぼしたということです。 義のアウトサイダー 新保祐司 藤原書店 (2018年11月10日発行・初版) タイトルと内容は少し違っているように思いますが、内村鑑三の果たした役割、信時潔の音楽に関しては、知っていたこととは違った新しい見方を学ぶことができました。特に音楽家としての信時潔と、彼の「海ゆかば」と「海道東征」の再評価は的を得た、素晴らしいものだと思います。 超・殺人事件 東野圭吾 角川文庫 (2020年1月25日発行・初版) 今まで読んできた東野圭吾のミステリーに比べると、かなり手抜きで、何も調べずに、アイデアだけで小説を書いたという感じが否めない短編集で、少し残念な気持ちになりました。しかし自虐的というか、高齢の同業者のこき下ろし方は、それなりに面白く、漫才のネタになると思います。 恋のゴンドラ 東野圭吾 実業之日本社文庫 (2019年10月15日発行・初版) スキー場を舞台にしたラブコメディーです。ミステリー物に比べるとかなりレベルが低く、視聴率のパッとしないテレビドラマという感じです。登場人物がもう少しくっきり描かれていると感情移入ができたのですが、紋切り型の人たちばかりで、サラっと読んでお終いの本でした。 スパイの妻 行成薫 講談社文庫 (2020年10月7日発行) 筋は面白い、しかし小説としての書き方がイマイチでした。しかし戦前ペストを生物兵器として使うことを計画した日本軍とその情報をアメリカに届けようとするスパイの動きは、コロナの時代の今、どこかの国の陰謀を暗示しているようで、興味深く読むことができました。 翻訳&通訳なら桜コンサルタント社にお任せ! Tel: +603-5638 3001 info@sakura.net.my http://www.sakura.net.my