Establishing a Company
日系企業のマレーシア進出について

マレーシアは東南アジアの中でも安定した経済成長を続けており、多国籍企業の進出が活発な市場の一つです。親日的な国民性、英語が通じるビジネス環境、ASEAN諸国へのハブとしての機能など、ビジネス展開には多くの利点があります。しかし、事業を始めるには外資規制、税制、労働環境、会社設立手続きなどを正しく理解し、適切な準備を行うことが不可欠です。本稿では、マレーシアでのビジネス展開に必要な情報を包括的に解説します。
※RM1=35円
❶事業準備:外資規制の確認
マレーシアで日本企業が事業を開始する際、まず確認すべきは外資規制です。業種ごとに規制内容が異なり、小売業、不動産、通信、教育、農業、運輸、メディアなどの分野では、外資出資比率に制限があり、マレーシア企業との合弁が必須となる場合があります。また、一部の業種では外資の参入自体が認められていません。最新の規制情報はMIDA(マレーシア投資開発庁)やSSM(マレーシア企業委員会)など政府機関からの発表を確認しましょう。
❷税制:法人税・個人所得税・SST
マレーシアの法人税率は標準で24%ですが、中小企業(資本金RM250万以下、年間売上RM5,000万以下)の場合、課税所得RM60万までは17%の優遇税率が適用されます。ただし、2024年の税制改定により、外資比率21%以上の外資法人は優遇税率の対象外となり一律24%の通常法人税率が適用となりました。間接税としてSST(売上・サービス税)が導入されており、売上税は5〜10%、サービス税は6%と定められています。
個人所得税は累進課税方式で最大30%、非居住者には一律30%が適用されます。外国法人への支払いには源泉徴収税(10〜15%)が課されることもあり、税務戦略の策定が必要となります。税制は頻繁に改正されるため、MIDAやSSMの最新情報を随時確認することが望ましいです。
❸雇用:労働環境と最低賃金
マレーシアの労働法では、労働時間は1日8時間、週48時間以内が基本で、時間外労働は月104時間まで認められています。最低賃金は2025年2月時点で月額RM1,700と定められています。
社会保険制度として、EPF(従業員積立基金)やSOCSO(社会保障機構)への加入が義務付けられており、EPFは退職後の生活資金、SOCSOは労働災害や疾病の補償を目的としています。ただし、日本人を含む外国人労働者には一部の社会保険が適用されないため、就労ビザ取得とともに慎重な確認が必要です。
❹会社形態と設立手続き
マレーシアでの起業において、Sdn.Bhd.(株式会社)が最も一般的な形態です。外資100%での設立も可能ですが、業種によっては制限があるため、事前の確認が欠かせません。Sdn.Bhd.の最大のメリットは株主の責任が出資額に限定されることと、事業拡大の自由度が高いことです。他に、Berhad(公開株式会社)という形態があり、株式を一般公開し資金調達が可能です。上場企業はBursa Malaysia(マレーシア証券取引所)に登録され、厳格な会計・報告義務があります。大規模事業向けの法人形態です。
設立には、会社秘書役(カンパニーセクレタリー)の任命が必須であり、会社名の使用許可申請(ネームサーチ)をSSMに提出し、承認を取得する必要があります。次に会社設立登記をSSMに提出し、正式に法人として登録します。設立後は、銀行口座の開設、必要な許認可の取得、税務登録などの手続きを完了させます。特に近年は外資法人の銀行口座開設の審査が厳格化しており、詳細な書類の提出を求められるケースが増えているため、事前の準備が不可欠です。


記載の内容は 2025年2月執筆時点のものです。最新の情報は各当局からの発表を参照ください。
❺ビジネスチャンスとリスク
マレーシアでは、電子・電気機械製造業が急成長しており、特に半導体産業が注目されています。また、デジタル分野(IT、フィンテック、eコマース)やコンシューマープロダクツ市場も、経済成長と若年層の増加により拡大が続いています。
同時に、人材不足とコスト高騰が課題となっており、効率的な人材確保とコスト管理が成功のカギとなります。また、多民族国家ならではの文化的配慮が不可欠であり、各民族の価値観を尊重したビジネス展開が求められます。
❻言語:ビジネス英語は必須
マレーシアの公用語はマレー語ですが、ビジネスシーンでは英語が広く使われており、必須スキルといえます。また、華人との取引では北京語や広東語への理解が求められるケースもあるため、ターゲット市場に応じた言語を用いることが望ましいです。
まとめ
マレーシアは東南アジア市場のゲートウェイとして魅力的なビジネス環境であることは間違いありません。一方で、法規制、税制、人材確保、文化などへの理解が不可欠です。専門家や現地のビジネスパートナーから助言を得てマレーシア市場を理解し、機会を最大限に活かすための戦略を練ることが必要です。

住吉 久典さん
SumLuck Co., Ltd.
sumi@sumluck.net
sumluck.net