Hello Malaysia

SSTとは

売上税とサービス税という2つの税制の総称。
モノとサービスの取引に対する税制です。

SSTの特徴とは

マレーシアでは2018年の政権交代に伴いGST(日本の消費税にも似た付加価値税)が廃止され、2018年9月1日からSSTが導入されました。読者の皆さんにとっても、レストランに行ったらSSTがかかるくらいは分かっていても、それ以外にどういう場面でSSTがかかるのかよく分からない方も多いのではないでしょうか。SSTが分かりにくい理由は、以前のGSTと異なり、SSTは特定の取引のみを課税対象としている点にあります。

SSTはSales and Services Taxの略称で、売上税(Sales Tax)とサービス税(Service Tax)という2つの税制の総称になります。基本的に、モノとサービスの取引に対する税制である点は旧GSTや日本の消費税と同じです。SSTのうち売上税はモノの取引に対する税制、サービス税はサービスの取引に対する税制になります。売上税の税率は10%(一部、免税や5%の品目もあり)、サービス税の税率は6%です(クレジットカード等の発行を除く)。

GSTとSSTの違いという意味では、旧GSTには「一般消費税」「多段階消費税」という特徴があり、簡単に言えば、広範かつ多段階の課税方式により、各種取引にもれなく課税していこうとする発想が根底にありました。これに対してSSTは「単段階課税」であり、また、特にサービス税では特定のサービスのみが課税サービスとして規定されており、「個別消費税」としての性格を帯びています。 ちなみに日本では1989年に消費税(GSTに相当)が導入される前は物品税という間接税が存在し、自動車、電化製品、宝石などいわゆる贅沢品のみに課税していました。しかし、そもそも何が生活必需品で何が贅沢品かは簡単に判定できるものではなく、また時代によって変わっていくものでもあります。また、国民の全般的な生活水準が向上してきている中で、公平な制度のもと課税ベースを広げて税収を確保する必要性もあり、時代の要請として日本は物品税から消費税に移行していったと言えます。これは世界的にも同じ流れで、現在は先進国を中心にほとんどの国でGSTなどの付加価値税が採用されています。マレーシアでも、2018年に政権交代が起きなければ、GSTからSSTに戻るなどあり得なかったはずです。

売上税-消費者には見えない税金

まず売上税について、売上税が発生するのは基本的に2つの場合のみとなります。具体的には、課税物品をマレーシアに輸入したとき、又は、売上税の課税事業者であるマレーシアの製造業者が製品を販売したときです。つまり、サプライヤー⇨製造業者⇨卸売業者⇨小売店⇨消費者という国内取引の流れがあった場合、GSTであれば全ての段階で課税が生じましたが(ただし還付の仕組みがあるためGSTを負担するのは基本的に消費者)、売上税の場合、製造業者が卸売業者に販売するときのみ売上税が発生し、それ以外の段階では売上税は発生しません(単段階課税)。

したがって、消費者である皆さんがショッピングモールなどでお買い物をする場合、小売店が売上税を課すことはありません(=小売店のレシートに売上税が表示されることはありません)。こういうわけで、一般の消費者は、普段、売上税を目にしないことになります。実際には、消費者のもとに商品が届く前の流通の段階で、課税となる製品の輸入や製造業者からの購入の際に、売上税は支払われています。ただ、売上税の仕組み上、課税品目か免税品目かによらずレシートに売上税は現れませんので、自分が買った商品にもともといくらの売上税がかかっていたかを消費者は直接知ることができません。こうした意味で、一般にSSTのもとでは消費者の痛税感は軽減されますが、常に消費者の目に触れるGSTの方が、より透明性の高い制度とも言えます。

サービス税 – 特定のサービスのみが課税対象

次にサービス税ですが、現時点で、課税サービスとして30種類強のカテゴリーが設けられています。具体的には、ホテル等の宿泊施段、レストラン等、ケータリング、フードコート、ナイトクラブ等、ヘルスセンター等、プライベート・クラブ、ゴルフクラブ、ギャンブル、弁護士、シャリア弁護士、会計士、鑑定士、エンジニア、建築士、コンサルタント、ITサービス、マネジメントサービス、人材紹介、警備業、クレジットカード・チャージカード発行、保険、電話・有料TV、通関、駐車場運営、車のサービス・修理、クーリエ、ハイヤー、広告、電力、国内線のフライト、ブローカー・保険引受、クリーニングになります。

読者の皆さんにも馴染み深いのは、レストランでかかるサービス税だと思います。屋台や小規模のレストランの場合は通常サービス税がかかりませんが、これは年間の売上がRM1,500,000(4,500万円)以下であればサービス税の課税事業者になる必要がないためです。他に読者の方がサービス税を目にする場面としてよくあるのは、ホテル代、日本人会の会費(「プライベート・クラブ」に該当)、ゴルフ場や練習場、電話やインターネット等の通信料、自動車保険などの保険料(イスラム保険、生命保険、医療保険などは対象外)、Astroなど有料テレビ代、駐車場代、といったところでしょうか。それ以外では、家庭用の電気代は月RM600(18,000円)kWh以上の部分は課税となります。また、クレジットカード・チャージカードのみ、6%ではなく、カード発行1枚につき年RM25(750円)が課税されます。

GSTは再導入される?

2018年の政権交代に伴い導入されたSSTですが、GST復活を望む声も根強くあります。SSTの導入に伴い国の税収が減少した点が大きく、2022年の総選挙後の現政権も、GSTの再導入を検討しているようです。とはいえ、GSTを再導入すれば国民の負担増になるため、政府も導入時期など詳細に踏み込んだ発言はせずに、慎重な態度を保っています。

GSTの再導入を期待する声は、事業者の間でも聞かれます。GSTであれば、事業者には直接的な税負担が原則的に生じず、公平性・透明性の面でも優れているためです。新型コロナウイルスの影響で厳しい財政状況が続く中、GSTの再導入に向けた議論が今後活発化しそうです。

※RM1 = 30円

佐藤 祐司さん
PricewaterhouseCoopers Taxation Services S/B (464731-M)
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