
ビジネスに関する税金
マレーシアでも、日本と同様に法人税の申告・納税が必要です。
法人税の制度概要
日系企業のマレーシア現地法人を含め、企業がマレーシアで事業を行うと、日本と同じように法人税の申告・納税を行う必要があります。個人で事業をされる方も、一般に日本人は事業目的でマレーシアに滞在できないため、自分の会社を作り会社に雇われている状態にして、自分の会社で雇用パスを取得するのが通常です。そうすると会社の所得を申告することになり、やはり法人税を払うことになります。
法人税の申告を行う前段階として、会社は財務諸表を作成し、会計監査を受ける必要があります。日本では、会計監査を受ける会社は上場企業等一部の会社だけですが、マレーシアでは小規模の会社を含め、原則すべての会社が会計監査を受けなければなりません。各会社は、毎年期末日から6カ月以内に、監査を受けた財務諸表を株主に提出する必要があります。そして法人税の申告書は、期末日から7カ月以内に内国歳入庁(IRB)に提出する必要があります。ただし、電子申告であれば例年1カ月の延長が認められており、実質8カ月以内に提出になります。日本では法人税申告書提出期限は2カ月以内(申請により通常1カ月延長可能)ですので、マレーシアは随分ゆっくりしていると言えます。なお2020年と2021年については、新型コロナウイルスの影響で、2カ月または3カ月の延長が認められていました。
他方、法人税の納付に関しては予定納税の制度があり、当年度の2カ月目から12カ月にわたり、当期の法人税を毎月前払いしていく必要があります。前払いする金額は当年度開始前に会社が自ら決定しますが、期末後に提出する法人税申告書の確定税額に比べて30%以上の不足が生じている場合は、ペナルティが発生します。かといって先に払い過ぎた場合は還付金がなかなか戻ってこないため、どの程度の金額を前払いしておくかは悩ましいところです。実務上は、期中6カ月目と9カ月目に前払いの金額を修正できますので、その機会になるべく最終税額に近くなるように修正しておくことが重要になります。
税率と所得計算
さて、マレーシアの法人税率は24%です。近年世界的に法人税率を引き下げる国が多かった中、マレーシアは10年前の25%から1%下がったのみで、今や税率がやや高い部類の国になりつつあります。資本金RM2,500,000(7,000万円)以下かつ年間売上RM50,000,000(14億円)以下の中小企業にはRM600,000(1,680万円)までの課税所得に対して17%の軽減税率が適用される制度があります。ただし、親会社等の資本金がRM2,500,000(7,000万円)を超えていると中小企業扱いされず、日系企業の多くは軽減税率を使えません。
毎年の法人税を算出するにあたり、財務諸表の税引前利益を出発点として税務調整を行い課税所得を算出する点は日本と同じです。少し専門的な話になってしまいますが、日本と異なる特徴的な税務調整項目としては、事業開始前の費用は損金不算入、期末に未実現の為替差損益は損益不算入、事業所得と投資所得がある場合の支払利息の損金算入制限などがあり、こうした知識がないと、税額の予測を誤ることになるため注意が必要です。また、固定資産に係る会計上の減価償却費は全て否認され、別途税務上の償却計算を行うことになります。特に建物については、「産業用建物」に該当しない建物、たとえばオフィスや商業施設などは税務上償却できません。こうした税務計算は、タックスエージェントに委託する場合がほとんどです。

マレーシアでは法人の所得も個人の所得も同じ所得税法(Income Tax Act 1967)のもとで課税され、正確には「法人税」という税目は存在しませんが、本記事内では便宜上「法人税」という表現を使っています。
近年の特徴
従来、マレーシアでは1986年投資促進法のもと投資誘致のための優遇税制を用意し、実際、製造業を中心に日系企業の多くもそうした優遇税制を享受してマレーシアに進出してきました。近年は、製造業向けの投資税額控除(ITA)や免税(パイオニアステータス)の優遇措置において会社に課す諸条件が厳格化されてきています。また統括会社向けのプリンシパルハブやIT企業向けのMSCステータスといった優遇措置でも、従業員数、給与、事業経費などの面での要件が厳格化され、簡単には優遇税制を利用しづらくなってきています。
また近年、日系企業の現地法人においても、移転価格税制等の税務調査がさかんに行われており、追徴課税を受ける例も散見されます。調査官と意見の折り合いがつかずに、異議申立てを行う会社も増えつつあります。決着がつくまで2年も3年もかかったりして大変な労力となりますので、税務調査が入っても問題が起きないように、事前に備えをしておくことが重要なのは言うまでもありません。
2020年の新型コロナウイルスの流行以降は、オンラインを用いた税務調査の実施や、調査期間の短縮とそれに伴う調査件数の増加等、マレーシア内国歳入庁も、財政が厳しい中でも税収を確保するための工夫を続けています。
その他の税制
マレーシアで事業を行うと発生する他の税制としては、SST(売上税およびサービス税の総称)、関税、不動産利得税(RPGT)、印紙税(Stamp Duty)等があります。また雇用主には、毎月の給与に係る所得税の源泉徴収・納税義務もあります。
関税については、日系企業では税関まわりの業務を物流担当者に任せきりで、日本人の財務責任者の目が行き届いていないことも多いようです。この場合、免税条件の遵守に不備があるにもかかわらず免税を適用している等、後で税務調査で問題が発覚し追徴課税が生じるような例も散見されます。
2022年1月1日から2022年9月30日までは、間接税の自主開示プログラム(Voluntary Disclosure & Amnesty Programme)が実施されています。SSTや関税等で、過去の申告・納税に誤りがあった会社が自ら修正を行う場合に、税関が課すペナルティが軽減される(2022年1月1日から2022年6月30日までは100%の軽減、2022年7月1日から2022年9月30日までは50%の軽減)ほか、場合によっては本税も減免されるプログラムになります。国としては本プログラムによる税収増を期待していますが、どの程度の効果が出るかは未知数と言えます。
※RM1 = 28円
佐藤 祐司さん
PricewaterhouseCoopers Taxation Services S/B (464731-M)
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